やってはいけない事業承継
2022年8月3日(水)
㈱Vコンサル 代表コンサルタント 野澤 周永
1.三つの事業承継
事業承継については、「経営の承継」、「事業の承継」、「株式の承継」、の三つの観点があります。「経営の承継」とは、会社の代表権を譲ることです。そして、「事業の承継」とは、営業や事業などの会社のビジネス活動そのものの指揮権を譲ること。そして、「株式(会社財産)の承継」とは、会社の所有権を譲ることです。これらはそれぞれ困難が伴う場合があります。
2.経営の承継
「経営の承継」については、たとえば先代が創業者であり、いつまでたっても代表権を渡そうとしない、渡したくても先代が「自分の目が黒いうちは渡したくない」というようなケースがあります。経営権というのは、自分の手に入らなければ決して経営者の意識になることはありません。後継者に自立心を持たせるためには、どこかの時点で「経営の承継」として代表権を渡す決断をすることが必須です。
3.事業の承継
「事業の承継」についても、やはり創業者の場合など、自分が手塩にかけて育ててきた事業を承継者にスッと手渡すということがなかなかできにくいということは多々あります。事業の承継というのは、客先の信頼を継承する事であり、また、これまでの信頼を獲得してきた自社の商品やサービスといったビジネスそのものを継承することであります。
4.任せて育てる
そのため、これらは先代のビジネスキャリアの歴史とともに充実させてきたものであり、営業でも商品・サービスでも承継のためにはそれ相応の承継のランディング期間(離陸までのそれ相応の時間)として、先代と承継者が事業で並走する期間がどうしてもほしいものであり、見て居られなくても、心配でも先代は「グッ」とこらえて承継者の危なっかしい様子をながめつつ、「任せて育てる」必要があります。
4.株式の承継
そして、「株式(会社の財産)の承継」については、よくあるケースは事業好調な時期が長く続き、十分な内部留保ができてきたことで純資産が増えてしまっている時、すなわち株式の評価があがってしまうために、買取資金が調達できない、相続の場合に莫大な相続税を現金ではらう必要が出てくるなどのケースです。これは、身内への承継の場合であれば、非上場株式についての相続税の納税猶予や免除などを税制が活用などを含め、相続の「戦略」を要するところであり、十分な承継計画が必要といえます。また、身内以外の経営幹部への承継等場合は、買取資金の調達等を含むMBOといったややマニアックな手法が必要となりますのでやはり専門家との十分は相談による承継計画を要します。
5.やってはいけない事業承継
こんな例があります。バブルの時期に事業を拡大してきた、多くの借金をして本業以外の不動産事業を展開し、ご長男に経営権を承継。会社の財務内容に疎かったご長男は代表権を引継ぎ、それからはたと気づくと、売上2億円、借入2億円、自分がグリップできない先代が経営する関連不動産会社が2億円の借入で建設した不動産の収入を得ている。借入過多で、リスケ(返済猶予や元本支払い凍結など)中で事業再生の要あり。・・先代の事業のつけは、先代が責任を持って処理し、くれぐれも承継者に「あり得ない」ほどの負債を背負わせることのないようにしたいものです。こんな「やってはいけない事業承継」が実際ありますので、自社の現状をきちんと見据えて、振り返ってゆめゆめそのような事態にならないようにしたいものです。
以 上