コラボレーション
戦後の高度成長期(昭和20年代後半~40年代後半)には、時の首相の「日本列島改造論」に象徴される官民こぞっての建設投資が行われていました。建設投資の増大により、建設業が急激な拡大を遂げた時代でもありました。当時は、建設受注は、談合という「話し合い」でとるものという異常な「常識」があったのです。そんなわけで、日本国中に、地域の総合建設会社(ゼネコン)が生まれたのです。そんな建設業ですが、1990年前後のバブル崩壊以降、公共工事急激に縮小し、ゼネコンスキャンダルを象徴として、それまでの勢いが急速に失速したのでした。
地域ゼネコンもご多分にもれず、その勢いを失ったのです。そして、多くの地域ゼネコンが倒産したのでした。総合建設業というのは、いわば「なんでも建設屋」であり、それでいてどこと言って特徴がなく、「この用途の建物が任せて」という用途建物を持たず、いわば『器用貧乏』な存在です。大手のゼネコンなら、たくさんの技術者もいて本当に「建設ならなんでも来い」ですが、地域ゼネコンは、規模も決して大きいわけではなく、何でも建設できるけれども「どこと言って特徴がない」といえます。
かつてのコンサル先にある地域ゼネコンがあります。バブル崩壊までは、地域建設業の雄として地域のリーダー的な存在であり、公共工事の談合をしきり、○○県に○○建設ありという地域ブランドを確立していました。地域では言わずと知れた存在であり、都内に出ずに、その地域で就職する学生達の間では「あそこに就職できたら最高」といわれる存在でした。
しかし、バブル崩壊以降は、公共工事の漸減、工事入札(価格競争などによる工事見積の競合)の透明化(談合の排除)が進み、かつての飛ぶ鳥を落とす勢いを失い、競争激化の波をもろに受けることとなりました。その結果、低収益構造から脱却できず、資金繰りにも苦しむようになり、借入金が年々増えて、倒産の危機といわれる「危険水域」の借入金額の水準まで達するようになったのです。
どうにも立ち行かなくなったことから、メインバンクが動いたのです。当方に事業再生の出動要請が来たのです。この会社を生かし、雇用を守り、下請け企業の連鎖倒産を抑えることで地域経済にダメージを与えないことがミッションです。私たちのチームは早速事業評価を行いました。事業評価というのはデューデリジェンスともいい、企業の実態財務である実態のバランスシート(不良債権やと土地の評価損なども見込んだ会社の実際価値)や今後の収益性の実際見通しを評価するものです。
すると結果は債務超過(負債が財産より大きく、つぶせば借金が残る状態)であり、どこと言って利益の取れる用途建物(マンションや病院など)がなく、現状のままでは高い収益性が望めず、何か強みを持たないと会社の収益性は向上しないとの判断です。長く地域の雄として、談合(話し合い)で仕事をとり、積極的に受注をとるための開拓営業を行ってきたツケと言えます。これまでは、待っていれば仕事は向こうからやってきた状況であり、お客様の事業サポートとして、設計提案をしたり、不動産活用事業のアドバイスをしたりといったことは積極的にはやってこなかったのです。
このような会社を強くするためには、自立的に頑張ろうにも各分野の専門性もなく、知識はノウハウもないためにスタンドアローン(単独)ではどうにもならず、倒産を待つしかないとい状況になります。では、どうするか・・。答えは簡単です。自立的に再生できなければ、外部の経営資源であるビジネスノウハウや技術を注入するしかないのです。
例えば、お客様の不動産活用をサポートするには、土地活用の事業提案を不動産活用に強い不動産業者とコラボレーション(業務提携)して、利益をシェアしながら建設提案をするのが早道です。また、稼働率の高い賃貸住宅を建てて事業の成功をサポートするためには、賃貸住宅の設計ノウハウを持った設計事務所とのコラボレーションが不可欠です。多くの中小企業はカリスマ創業者の事業ノウハウでこれまで会社を引っ張ってきました。
しかし、多岐多様に専門分化した現在のビジネスに対応するには、一社単独で立ち向かうのは限界があります。そこで求められる生き残り策が「コラボレーション」なのです。自社が持たない他社のノウハウを活かし、これまでにない価値を創造するのです。たとえ利益をシェアすることになってもこれまでにない力を発揮し、他社差別化が可能になるのです。
「コラボレーション」に踏み切る勇気を持つことで、これまでにない経営力を獲得することができるのです。ただ、大事な留意点は、利害調整です。自社だけが儲けようとせず、WINWINの関係を常に意識してコラボレーションの相手と向き合いことです。
また、自立してやってきた会社にとって、どのように「コラボレーション」のきっかけをつくるか?直接アタックも可ですが、できれば、ワンクッション置く、つまりコンサルタントや金融機関などを介して紹介を受けるなどの手順を踏んで、お互いが近づきやすい環境を整えて、同じ価値観で取り組めるかを確認しながら進めることが肝要です。
以上